妊娠、出産しないと、女性はオニババになってしまう−−そんな呼びかけをした本が売れている、「負け犬の次はオニババ?」と反感を抱く人もいるだろうが、果たしてどんな意図で書かれたのだろうか。医学的、社会学的な検証を加えつつ、考えてみたい。【松村由利子、写真も】
◇「子どもを産まないことになってしまう」って…
◇本が売れている−−著者は女性の健康を専門分野とする研究者
◇「決定は早い方が」−−先延ばし傾向を懸念
☆性や生殖の見直しを
「オニババ化する女たち」(光文社新書)の著者、津田塾大教授の三砂ちづるさん(46)は、女性の健康や途上国の保健を専門分野とする研究者だ。
同書は「日本の昔話に出てくるオニババは、社会の中で適切な役割を与えられない独身の更年期女性が、エネルギーの行き場を求めて若い男を襲うという話だったのではないか」と、性や生殖の見直しを提案する。
執筆のきっかけは、ブラジルに約10年住み、女性の健康に関する調査プロジェクトにかかわったことだ。ブラジルでは出産への医療介入が進み、帝王切開が4割以上を占める状況だったが、プロジェクトで自然出産のよさを伝え、産婦がリラックスできる産室づくりや日本の助産師に相当する新たな専門職が取り入れられた。
三砂さんは「日本でも戦後、医師主導の病院出産が奨励され、女性たちは体やお産に関する昔ながらの知恵を失ってしまった。そのため、月経や妊娠、出産は煩わしく、つらいものという否定的なメッセージが伝えられてきた」と言う。
☆社会構造の変化で
「若い世代には、肯定的に女性である自分の体と向き合ってほしい。仕事も大事だが、出産はできれば早い方がいい」と三砂さんは勧めるが、医学的にはどうなのだろう。
東京都江東区で婦人科クリニックを開業する丸本百合子医師は「体のことだけを考えれば、出産には10代後半から20代前半が最も適している。ただ社会的構造が変わり、体の成熟と社会的な成熟がずれていることを考えなければ」と話す。
しかし、丸本さんも出産を先延ばしにする傾向に懸念を抱く。「産まない選択をした人は別として、いつか産みたいと思う人が、35歳くらいになって急に焦ってもうまくいかないこともある」
産科婦人科学会は「35歳以上の初産」を高齢出産としているため、「それまでに出産すれば大丈夫」という風潮があるという。しかし、卵巣機能などは、年齢とともに低下する。
「37、38歳で不妊治療を始める人には、漢方など体に負担のない方法を試す余裕がなく、体外受精をはじめとする高度治療のできる専門施設を紹介するしかないことを知っていてほしい」と丸本さんは言う。
米国の研究グループが91年、年齢別に体外受精の着床率を比較したところ、30歳未満では30・4%、30代前半は19・4%、30代後半は9・8%、40歳以上は6・4%と年齢が上がるほど低いことが分かった。40歳以上で流産率が高くなることと合わせ、英医学誌「ランセット」に発表された。
葛飾赤十字産院の竹内正人医師は、大学の看護学部で助産師課程を取る学生たちに、お産のイメージを尋ねたことがある。9割が「痛い」「怖い」といった否定的な印象を抱いていた。
「出産は自分と世界のつながりを感じたり、体と心が開放される感覚を抱いたりできる経験なのに」と残念がる。
「高齢出産には、人生経験や知識の豊富さといった良さもたくさんある。いつ産んでもいいですが、お産の素晴らしさを若いうちに経験してほしいという気持ちはあります」
毎日新聞 2004年12月9日 東京朝刊